満州にて終戦を迎え シベリアに抑留されました。 辛い日々を如何に生きるかが人生の参考になれば良いかと想います。
  異  聞  抑  留  記 NO 10
平成 7年              著者   江藤 一市
1.終戦 2.苦難の町 3.虱駆除 4.医療天国 5.炭坑
6.平原の歌声 7.炭坑の女 8.小野軍曹 9.収容所の楽しみ 10.アウトロー
11.班を作る 12.アクモリンスク 13.補充食糧 14.MTC生活 15.可愛い妹
16.特異体験 17.偽の診察 18.金鉱i石採掘 19.魚釣り作業 20.食糧が無い
21.特異体験 22.ジョロンベッドの街 23.ダワイとダモイ 24.帰国命令 25.ナホトカ収容所
『アウトローグループ』
可なり自由な日を過ごしていたが、或る日突然容易ならぬ事態に立ち至った。「鶏口牛後」と言う言葉が有る。中国の「鶏口となるとも牛後となる勿れ」と言う諺からのもので、小さな団体でもその長となる方が、大きな団体の尻に従うよりも良い。と言う意味である。然し世の中、人の頭に成りたがる者ばかりでも困る。良い例が政治の世界でしょう。上に立ちたいばかりに、中傷、誹謗、足を引っ張り、陥れ、抱き込み、裏切りと、色々策を巡らせてでも、伸し上がろうとする様子は、見るに耐えないものが有ります。町内会、村の集会等でも、人間の浅ましさが表れています。噂では川柳の世界に迄そんな事が有るとか無いとか・・・。【この人も主役でないと収まらず】【上段に置けば機嫌のいい男】
ところが、こんな人間の習性を上手く利用すれば案外な結果を得ることも有る。抑留生活も一年以上になると、もう旧軍隊の規律、秩序は影を潜めてしまい、況して半分以上は自棄気味になっている者も多く、全く酷い状態でした。それに彼方此方の部隊からの寄せ集めなので、北海道から沖縄まで、色々な地方気質の人達の寄り集まりだから尚更のことでした。

昔の階級性の名残りで、元大隊長だった大佐を隊長とし、その下を十グループに分けて作業小隊として、その隊長には元将校、下士官を着け、それぞれ作業現場に出ていた。ソ連側は統制上まだ元の階級制を認識していた。体の悪い者や、営内作業者を除くので、各小隊四十人前後だった。前にも書いたが、作業現場は炭坑、工場、発電所、道路、建築、鉄道、農場等であるが、どの作業にも必ずノルマが有って、これを100%やり遂げる様要求される。若しこれが完遂できないと、即食料の減配となった。甚だしく成績の悪い日が続くと、プロホラボーター(不良労働者)としてチュリマー(營倉・監獄)と言う処罰まであった。又は懲罰作業と言う超重労働の作業所にやられる。石材、又は木材の切り出し作業である。余程重労働で、危険も伴うらしく、其処に行った人は、怪我をしたり、衰弱仕切ったりして帰ってきたものだった。それでもノルマを肥えて優秀な成績が続くと、増食や、わずかながらも報奨金が貰えた。だから書く小隊とも、作業成績を上げようと努力していた。ところがどの小隊にも何人かのロードリー(怠け者)がいて、成績の上がらない一因をなしていた。

有る時、小隊長連中の協議の結果、それらの不良分子を一纏めにして一つの作業班を作ろうと言うことになった。恐らくそのメンバーでは懲罰作業所行きは必至と思われた。小隊長連中も多分それを望んでいたのだろう。
所がである。一大事出来!事もあろうにその分隊長に私をと言うのであった。冗談じゃない!なんで俺がその懲罰メンバーと運命を共にしなければならないんだ!俺も少々は煙たがられていたかも知れないが、不良分子の一員と見れていたとは慮外千万!。私は猛反対した。「君でなければあの連中は扱い切れない」
と「君なら言葉が通じるから仕事がスムーズにいく」「医療所に居た君なら皆が顔を知っているから」とか「決してロードリー扱いするのではない。皆を立ち直らせるのは君より他に居ない」とかなんとか。宥めたり、すかしたり、煽てたりして皆で盛んに説きつける。然し私は頑として受け付けなかった。余りの頑固さに、遂に最後の手段、収容所長命令を出すように計らい、聞き入れなければチュリマー行きだと言うことになった。ええぃ、勝手にしやがれ!と半ばや気気味で引き受けることとなった。

愈々第一日。集まった三十人の顔触れを見てあっと驚いた。 何と錚々たるメンバーだった。筆頭は、傷害事件で懲戒免職になった、大阪の元巡査B。上半身般若の入れ墨をした大牟田の元炭坑夫S、生き蛇を、引き裂いてその儘食べ、ソ連警備兵に悲鳴を上げさせた東北出身の流れ大工K、等など、各小隊札付きの猛者ばかり・・・。十人ほど花も知らぬものも居たが、いずれにしても一癖も二癖も有る連中ばかりであることに間違いはなかった。一時医療所に居た関係で皆は私の顔は知っていたが、このメンバーを纏めて仕事をさせるのは並大抵のことではないと覚悟した。『おいみんな!この班は全くの員数外だからな、ここでは将校も下士官もない。誰にも文句は言わせんから適当にサボれ!』これがリーダー格Bの第一声だった。さあ困った、この先どうなる事やら・・・。
つづく